筆者
伊東大祐
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韓国家庭のサポート
私は日本人の父と韓国人の母の間に生まれた。幼い頃から母子家庭で、母が夜遅くまで働きに出ていた事を覚えている。母は私に不自由させまいとありとあらゆる手段を使って私のプロゴルファーになるという夢を追うチャンスを与えてくれた。
小学生の頃、学校から帰ると家に母がいないのが当たり前だった。今思えばその分寂しい思いをさせないと気を使ってくれたのか、週に7回毎日違う習い事に通っていた。アトリエ、ピアノ、空手、テニス、ゴルフ、習字、体操。放課後は毎日習い事に通い、帰ったらお手伝いさんが作ったご飯を食べて寝るのが小学校の時の思い出だ。
小学校3年生の頃、初めてアメリカに行き、ゴルフを覚えた。初めてクラブを握った事以上に、アメリカのスケールの大きさに心踊る1週間だったのを鮮明に覚えている。当時はサンフランシスコのUnion Squareにナイキタウンと言うナイキのビルがあった。この8階建の建物はスポーツ別でフロアが分かれていて、まさに夢の様な場所だった。
ダウンタウンのハンバーガー屋で当時まだ小学生だった僕の顔の大きさ位あるバーガー、街歩く巨人の様な大きい人々、サンフランシスコの街並みの余裕さや、滞在中に観光で行ったグランドキャニオンの広大さなど全てが規格外だった。大きければ良いという訳ではないが、まだ幼かった私にとっては全てが魅力的な場所だった。
帰国後もアメリカが頭から離れなかった。「いつかあの場所でプロゴルファーになりたい」と思う様になった自分がいた。母の仕事が休みの日は、よくアメリカの話をした。そんな話をいつも楽しそうに聞いてくれた母の笑顔と同時に、合間に何か真剣に考える母の表情が見え隠れしていたのも覚えている。
小学校5年生のある日。母がこう切り出した。「あなたアメリカに行く?」またアメリカに旅行に行けると飛び回った記憶がある。しかし母が意味したのは1週間の旅行でもなければ、1ヶ月のサマーキャンプでもなかった。真剣な顔でこう言った。「アメリカで生活する?あなたがその気ならあなたの夢は応援してあげる。」
今でもそうだが私は物事をそこまで深く考えない。その時の雰囲気と自分のフィーリングがマッチングさえしていれば、すぐに行動に移すタイプだ。その時すぐに「うん、行く!」と答えた。一人息子を海外に送り出すのはそう簡単ではない。大人になって、自分も結婚してその決断の難しさが分かる様になった。日本人家庭ではほぼありえないシチュエーションだと思う。この大陸特有の海外へ出て行く考え、更に子供の為なら家でも売って成功させたいと言う考えは韓国では珍しくない。親のサポートは韓国人選手が強い理由の一つだ。
アメリカ単身渡米
アメリカへの単身留学が決まり、いざ現地のボーディングスクール(寮付きの学校)に入るとその韓国人の多さにびっくりする。日本人の割合は韓国人の5分の1以下だ。何処の学校に行っても韓国人、中国人、インド人がダントツ多かった。一人っ子の11歳を単身渡米させるのは日本的にはほぼありえないと上記に述べたが、私と同じ様な境遇の留学生が驚く程多かった。そんな子達が周りに多かった事もあり、心通わせる居場所を異国で見つける事が出来た。すぐにたくさんの友達が出来、親に1ヶ月以上電話をするのを忘れる程ゴルフと留学生活に夢中になっていた。こんなに韓国人ゴルファーのパイが大きければ1人2人3人とスターが現れるのは時間の問題とも言えるだろう。
韓国人の積極性
韓国人はとにかく図々しい。一線超えて、図々しすぎるが故に憎めないレベルで図々しい。その図々しさ、積極性がまたアメリカでの受けがいい。控えめの日本人は積極的に先生やコーチにアプローチする事が少ない一方で、韓国人は俺が俺が、私が私がと我をマックスでアピールする。この積極性と呼ぶ図々しさが韓国人が強い理由の一つである事は間違いない。とにかく、周りの目を気にしない。今となっては有り得ないが、アメリカのジュニアトーナメント会場で同世代の韓国人の女の子が試合中にお父さんに怒鳴られながらビンタを何発も食らっていたのを覚えている。周りの目を一切気にしない韓国人の気合いの座り方は、確実に世界トップクラスだ。この図々しさ、メンタルの強さは韓国人最強の武器の一つだろう。
”ナショチ” 以外のルートで力を付ける
そもそも、ナショナルチームに選ばれる様な面子はあまり海外留学には行かない傾向にある。国から手厚いサポートが受けられ、試合の遠征からレッスンから何から何まで無償で受けられるからだ。(ナショナルチームも海外合宿を行うので、それを留学と呼ぶのも間違いではない)ただ、ナショナルチーム以外の子達は自力でやって行くしかない。そんな考えを早くから受け入れ、最先端の情報、最高の環境を求め海外にいち早く目を向け始めたのが韓国だ。アメリカ、オーストラリア、カナダ、ニュージーランド等どの国に行っても韓国人ゴルフ留学生がたくさんいる。上記にも述べたが、これは親の手厚いサポートがあってこそ可能な事。家庭がどんなに苦しくても、子供の為になら借金してでもゴルフをさせる。良くも悪くも、チャンスが与えられる人間の数=チャンスを掴む人間の数の増加の方程式は否定できない。海外に行かない場合も、国内で毎日学校にも通わずゴルフばかりの生活を送っている子が多い。韓国はラウンド代がかなり高い為、結局はゴルフ留学しても同額、むしろ安上がりでありながらもっと良い経験が出来る。これは日本も同じ事が言えるだろう。
韓国人選手の圧倒的数
日本人選手はなかなか世界へ出て行こうとしない。PGAツアー、Web.comツアー、ヨーロピアンツアー、日本ツアー等に参戦する男子韓国人選手は軽く100名を超える。女子は言うまでもなく、圧倒的に多い。一方で現在日本人で海外メインに戦う男子選手は石川遼、松山英樹、小平智、川村昌弘等名前をあげられるのはごく僅か。
確かに韓国ツアーで飯を食って行ける選手は、賞金ランクトップ20位前後迄といったところだろうか?韓国ツアーはつい数年前まで試合開催週の火曜日に大会が突如キャンセルされる事態が発生する等、壊滅的な状況に追い込まれていた。だからこそ選手達が潤っているツアーを求め、世界に出て行った。ここで韓国が違うところは、海外に出て行くことを躊躇しなかったところだ。日本ツアーがもしダメになった時、海外にチャレンジしようと行動出来る選手はどれ程いるだろうか?
韓国人の語学力
良く誤解されているのが、韓国人は日本人よりも英語が得意と言う点だ。全くもって間違っていると思う。多くの韓国人は日本人の英語発音をよくバカにするが、それは自分達の事を棚に上げて言っているだけで、どちらも同レベルで英語が不得意。ただ、韓国人はここでもその図々しさが働き、自分達は日本人よりも喋れると自信を持って、文法が無茶苦茶な英語(というより単語を並べているだけ)を積極的に駆使する。だから海外に行く事に関しても特に語学の壁を感じていない。ここでもそのメンタルの強さを発揮する。そうこうしている内に、正しい文法や単語を吸収し、凄まじいスピードで英語力が伸びて行く。深い話になってしまうが、メンタルの強さは弱さと紙一重なのかもしれない。
フィジカルは関係ない
間違っても、韓国人が強い理由はフィジカルでは無い。背が高くても小さくても成功出来る。日本人はフィジカル的に世界で戦えないと言うのは古い考えだ。実際に片山晋呉選手、伊沢利光選手等小柄な選手がメジャーで4位に入り、今田竜二選手2勝、丸山茂樹選手は3勝挙げている。
居心地の悪さが海外へ目を向けさせる(ハングリー精神)
観光で韓国料理を堪能したり観光スポットを数日ぶらぶらする程度なら良い国だと思うが、正直韓国はかなり住みづらい。交通状況は最悪で、貧富の差が激しい。そんな中で、3大大学と呼ばれる延世大学、高麗大学、ソウル大学といった名門大学に入れなかったら人生半分終わりと言うレッテルを貼られてしまう。韓国は日本の様な産業大国ではないので、サムスン、LG、ヒュンダイ等の大企業に死んでも入らなければという気持ちを持っている学生が多い。死ぬ思いをして勉強し、やっとサムスンに入社出来たと思えばかなりの低賃金。そこで上手く生き残り、上に上がって行かねばとまた学生時代と何変わらぬ競争が永遠と続く、なかなかシビアな社会である。(もちろん中にはどんなに低学歴でも成り上がる人がいるのは言うまでもない)
そんな社会的現象の中、上記に述べた延世、高麗、ソウル(SKY、日本で言うMARCH的な)に入れなさそうな子は親がせめて英語でもと幼少期からさっさと海外留学に行かせるケースがかなり多い。人口が日本の3分の1程度の国の留学生が日本の5倍いると考えると、その圧倒的な割合を分かって頂けると思う。母国の居心地が悪いと言うのは、世界に目を向ける理由になる。近年日本や韓国にどれほどの中国人留学生が増えているかお気付きだろうか?それに比べ、海外で日本人はそう目立たない。
日本の可能性
今後、日本も韓国の様に徐々に海外に出て行く選手が増えてくると思う。何年かかるかは定かではないが、確実に海外に目を向けているゴルファーが増えているのは間違いない。経済的にも、社会的(少子化等)にも衰退して行くであろう日本。日本の居心地が悪くなるかは分からないが、ゴルファーに限らず海外を視野に入れる人はどんどん増えてくるだろう。
まとめ
個人的には固定概念が嫌いですが、韓国人が強い理由?と言う問いに対して私なりに答えられたと思います。ご意見や感想はコメントに残して頂ければ幸いです。最後まで読んで頂きありがとうございました!
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